【生肉转载】Febri TALK系列——平尾隆之

取材・文/岡本大介
①大人になることに希望が持てた
『機動警察パトレイバー』
自身が監督を務めた劇場アニメ『映画大好きポンポさん』が、驚異のロングランヒットとなった平尾隆之が選ぶアニメ3選。その1作目は、小学生時代に出会い、退屈で憂鬱な大人への印象をガラリと変えてくれた『機動警察パトレイバー』についてのインタビュー。
マイノリティが頑張って幸せをつかもうとする物語
――子供時代のエンタメ体験を教えてください。
平尾 幼少期から小学校低学年くらいまで、かなりの吃音症で悩んでいたんです。そのせいでなかなか友達と話すことができず、家でアニメやマンガ、映画、小説などに触れることが多い子供でした。その当時に触れたエンタメ作品に心が救われたことは間違いなくて、おかげで今こうしてアニメ作りに励んでいるという感じですね。
――どのようなエンタメ作品に触れていましたか?
平尾 幼少期に見ておぼえているのは、アニメで言うと『不思議の海のナディア』と『迷宮物件 FILE538』。マンガだと『AKIRA』、小説だと村上春樹さんの『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』、映画では『ヤングガン』などが印象的ですね。いずれも自分を知らない世界へと連れていってくれるような存在で、それはもう夢中になりました。
――平尾さんが触れてきた多くの作品の中から3本を選んでいただいたわけですが、1本目は『機動警察パトレイバー(以下、パトレイバー)』です。これは最初に出たOVAシリーズですか?
平尾 そうです。僕は香川県の生まれなんですけど、当時、『アニメだいすき!』っていう関西ローカルの番組があって、そこではけっこうコアなOVA作品を放送していたんです。先ほど挙げた『迷宮物件 FILE538』もそうですし、『パトレイバー』もその枠で放送されていて、小学3~4年生だったと思いますが、めちゃくちゃインパクトを受けました。
――どんなところに惹かれたんですか?
平尾 当時から「マイノリティがマジョリティに一矢報いようとするお話」が好きで、今でもそういう作品を作りたいと思っているのですが、『パトレイバー』の世界はまさにその匂いを感じたんです。主人公たちが所属する特車二課は、警察機構の一部ではあるけれど、メンバーははみ出し者のマイノリティばかりですよね。でも、そんな彼らが頑張ることで、どうにか幸せをつかもうとする物語のように感じられました。しかも、この作品の場合、そのことをシリアスにではなく軽妙なコメディとして描いていて、その雰囲気が好きだったんです。なにしろ小学生の頃の僕は「大人になったら、きっと人生は楽しくないだろうな」って思っていましたから(笑)。でも、野明(のあ)や遊馬(あすま)たちを見ていたら、こんな職場なら意外と楽しく生きていけるんじゃないかと思えましたし、仮に落ちこぼれだったとしても、頑張れば何かの役に立てるのかもしれないなと、未来に希望が持てたんですよね。

――たしかに特車二課はゆるくて楽しい雰囲気ですね。
平尾 そうなんですよ。野明や遊馬たちって責任感もそこまで強くないですし、上司の後藤隊長も昼行灯(ひるあんどん)っぽいキャラクターじゃないですか。そこがリアルで共感できたんです。それにOVAの第1話から、イングラムが首都高の渋滞に巻き込まれてなかなか到着しないとか、近未来が舞台のロボット作品なのに東京の交通事情が描かれていたりして、そういうところも身近に感じて一気にハマりました。とくに第3話くらいまでは、たまにシニカルな描写があっても全体としてはコメディ色が強くて、いちばん好きな雰囲気ですね。
――第5~6話の「二課の一番長い日」や劇場版はわりとシリアスなストーリーですが、そちらは?
平尾 今ではそっちも好きなんですけど、それは成長するにつれて魅力がわかってきた感じです。『機動警察パトレイバー the Movie』は小学6年のときに劇場に見に行ったんですけど、僕の知っているOVAのパトレイバーとはかけ離れていて「いったい何を見させられているんだ?」って混乱しました(笑)。それでも見終わったあとは「よくわからないけど面白い」と感じたので、押井守監督のエンタメ性が出ていたんだと思います。『機動警察パトレイバー2 the Movie』を見たのは中学時代でしたけど、そのときは「さっぱり理解できないけど、何か深いものを見た気がする」というのが正直な感想でした。ただ、シリアスなストーリーの中にもちょっとしたおかしみというか、人間臭さというのが必ず描かれていて、僕はそういうところがとくに好きなんです。結果的に、初期OVAと劇場2作はこれまで人生の節目ごとに見ているような気がします。
――ご自身の創作にはどんな影響を与えていると思いますか?
平尾 キャラクターの描き方には大きな影響を受けていると思います。パッと見でわかりやすい記号的なキャラクター性を持ちつつ、建前と本音、言動と心情、大人っぽさと子供っぽさなど、ちゃんと複雑性も持っているんですよね。エンタメ作品のキャラクターとして、魅力的でありながら同時にリアルでもあるというのは僕自身も大切にしているところで、そこは『パトレイバー』がひとつのベースになっています。そうした大勢のキャラクターたちが織りなす多様なドラマ性というのもすごく魅力的で、いわゆる「群像劇」を描くうえでのヒントが詰まっているのは間違いないと思いますね。僕自身、今でも勉強させてもらうことが多いです。
②思春期の鬱屈感とリンクした
『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』
自身が監督を務めた劇場アニメ『映画大好きポンポさん』が、驚異のロングランヒットとなった平尾隆之が選ぶアニメ3選。インタビュー連載の2作目は、思春期を迎えたばかりの平尾が深く感情移入したという『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』。
この作品から「悪役の作り込み方」を学んだ
――『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』はOVAと劇場版がありますが、どちらを先に見たのですか?
平尾 OVAです。最初に見たのは中学生だったと思いますが、じつはそれまで『ガンダム』シリーズってほとんど通ってこなかったんです。子供の頃に再放送はあったと思うんですけど、今見るにはちょっと古いかなと感じていて、代わりに富野由悠季さんの小説を読んでいました。
――では『ガンダム』アニメとしてはほぼ初体験ですか?
平尾 そうです。偶然見たんですけど、すごく惹かれました。『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』は『ガンダム』シリーズの外伝的な位置付けで、登場キャラはニュータイプではなく、普通の人間ばかりなんですよね。もちろん、モビルスーツによるロボットアクションも描かれますが、どちらかと言うと人間ドラマが主体で、そのドラマ性に共感したんです。前回の『機動警察パトレイバー』のときもお話ししましたが、僕の創作における大きなテーマは「マイノリティがマジョリティに一矢報いる」なんです。それでいうと、主人公のコウはパイロットとしての才能はあってもいかんせん新米パイロットで、ライバルとなるガトーとは技術面でも経験面でも圧倒的な差があって、本来ならばとても敵う相手ではない。それでもコウはガトーに一矢報いたいという執念で成長していって、ついに相手を追い詰めるところまでいくんですよ。そのあたりの展開が、まさに僕の好きなストーリーで、ドンピシャだったんです。
――でも、そんな土壇場でガトーをかばったのはヒロインのニナなんですよね。
平尾 そうなんですよ。じつはガトーとニナは元恋人同士だったということが物語後半で明らかになるのですが、コウはライバルに勝てないうえに、信頼していた恋人にも裏切られるという衝撃的な展開で(笑)。
――かなりショックでしたか?
平尾 ショックでしたね。四国の片田舎で思春期を迎えていた当時の僕は、言いようもなく鬱屈した想いを抱えていたんです。だからこそ、新米軍人ながら頭角を現そうともがくコウに自分自身を重ねていて。それだけに、あの衝撃の展開には行き場のない悔しさを感じました。戦いの最後、気絶から目覚めたコウが叫びながらビームライフルを乱射しますが、あの気持ちはよくわかります。
――劇中を通じてコウは成長しますが、ガトーに勝つという目的は果たされずに終わるんですよね。
平尾 むしろ信念を貫き通したのはガトーですよね。不思議なんですけど、感情移入をしていたのはコウなんですけど、好きなのはガトーだったりするんです。それもこの作品の面白いところで、共感するキャラクターと好きなキャラクターが違うというのは、やっぱりキャラクターの強度が高いからこそだと思いますし、今でも好きな理由のひとつです。

――作画や演出面はいかがですか?
平尾 シリーズ後半になると作画のクオリティが急に上がるんですよね。これは制作途中で劇場公開が決まったことによるグレードアップ処置らしいんですけど、とにかく描き込みが尋常じゃないレベルなんです。メカのパネルラインやキズなどもすごく細かく描かれていて、それによって凹凸感や光の反射などのディテール表現が格段にレベルアップしていて。『メガゾーン23』など、80年代のOVAでも密度の濃い作画はありましたけど、これはまた新しい段階の表現だなと感じました。最近の流行には反しますけど、僕はいまだに濃い絵柄が好きで、影やハイライトを入れてようやく絵が完成した気持ちになるんです。それは確実にこの作品と、次に取り上げる作品の影響によるものだと思います。
――好きなシーンはありますか?
平尾 デラーズ中将の最期です。寝返ったシーマに銃口を突きつけられながらも、ガトーに向かって「行け、ワシの屍を踏み越えて!」と作戦の続行を促すんですが、この言葉に作品のテーマやエッセンスがすべて詰まっているように感じます。デラーズ自体は劇中においてそこまで描写されているわけではないのですが、死地に際してああいうことを言えるというだけで、ガトーとの信頼関係はもちろん、軍人としての潔さや信念を感じることができるんですよね。
――この作品の世界では連邦側の上層部が腐敗していて、ジオン軍のほうが高潔に描かれているんですよね。
平尾 そうなんですよ。だからこそキャラクターとしてはガトーのほうが好きだったりするんです。ガトーは自分の信念に反することは絶対にしないんですよね。コウにはまだそこまでの信念はないですし、言動も子供っぽいですから。
――未熟な主人公と成熟した敵という構図はじつに『ガンダム』らしいなと感じます。
平尾 そうですね。それでも最後に生き残ったのはコウだというのがまた皮肉ですよね。そういう意味では、僕はこの作品から「悪役の作り込み方」を学んだ気がします。劇中では敗北したとしても、ガトーやデラーズのような信念のある悪役キャラを描きたいなといつも考えています。
③アニメの技術革新を感じた
『マクロスプラス』
自身が監督を務めた劇場アニメ『映画大好きポンポさん』が、驚異のロングランヒットとなった平尾隆之が選ぶアニメ3選。インタビュー連載のラストとなる3作目は、驚異のアクション作画に痺れた『マクロスプラス』。『ポンポさん』の作画の参考にもしたという絵作りの魅力とは?
板野一郎さんをはじめとする最高峰の職人さんによる手仕事
――3本目は『マクロスプラス』です。奇しくも3本ともロボットアニメとなりました。
平尾 このラインナップだと誤解されそうですけど、じつはロボットアニメってそこまで詳しくないんです。今回選んだ3作品はたまたまベースにロボットの世界観があるだけで、基本的には人間ドラマの部分が好きなんですね。ただ、『マクロスプラス』に関してはドラマはもちろん好きなんですけど、いちばん衝撃を受けたのはビジュアル面かもしれません。高校生のときに見たのが最初ですが、ここまで凄いアクション描写を体験したのはこの作品が初めてで、アニメの技術革新を感じました。
――具体的にはどんなシーンに技術革新を感じましたか?
平尾 戦闘機のドッグファイト表現ですね。とくにパイロットにかかるG(重力)の表現がすごくて。極度にGがかかっているときには呼吸ができず、Gが抜けた一瞬のタイミングで息をしていたり。これはキャストの方の芝居も抜群にうまいと思うんですけど、そういった描写がすごく丁寧なので、現実ではありえないアクションをしているのに、しっかりとしたリアリティが生まれているんですよ。高速で戦闘機が飛び回って、それを捉えるカメラワークも縦横無尽、さらにミサイルの軌道や爆発のエフェクトも加わって。とにかく痺れました。
――登場する機体はいずれも可変戦闘機ですが、戦闘機形態でのアクションが多いですよね。
平尾 そこもリアリティがあったのかもしれませんね。映画などで見知った形の戦闘機なのに、それがアニメになるとここまで衝撃的なシーンになるんだ、と。そんな感覚は初めてでした。あまりに気になって、映像をコマ送りして何度も見たんですけど、本当に細かく丁寧に描いているんですよね。実際の再生速度では一瞬すぎて気がつかない箇所でも、動きをまったく省略していない。板野一郎さんをはじめとする最高峰の職人さんによる手仕事だからこそ表現できたのかなと思います。
――CGではなかなか描けない迫力ですよね。
平尾 そうですね。CGでモデルを作ってパースの変形をかければ同じような絵作りはできるとは思いますが、ごくわずかな歪みだったりタイミングの調整が重要なので、厳密には同じにはならないと思います。ここまでダイナミックな映像にするには、やっぱり手描きで培ったセンスや感覚が必要で、今の時代に表現するのは難しいでしょうね。直近の監督作品『映画大好きポンポさん』の制作中にも何回か見直したくらい、ビジュアル面で参考にさせてもらっています。

――『ポンポさん』はアクション映画ではありませんが、どんなところが参考になったのでしょうか?
平尾 カメラワークや演出、特殊効果などです。たとえば、オプチカルT.U(トラックアップ)というのですが、カメラの手前に戦闘機があったとして、戦闘機は動かさず背景だけを一気に手前に寄らせるとか、そういう表現は僕も絵コンテではよく描きます。戦闘機をキャラクターに置き換えて使っている感じですね。
――なるほど。キャラクターのドラマについてはいかがでしたか?
平尾 これも僕の中では「マイノリティがマジョリティに一矢報いる」展開ですね。人工知能の台頭で、もはやパイロットそのものが不要になるかもしれないという時代背景で、主人公のイサムは完全にアナログ主義なんですよ。対してライバルのガルドは機体と神経をつないで操縦する、いわばハイブリッドタイプ。そしてラスボスは人工知能が操る完全な無人戦闘機。つまり、イサムはこの先消えゆくであろうマイノリティの象徴で、そんな彼が社会に対して抵抗して、それを打ち破っていくストーリーとも読めるんです。それにイサムって自由奔放でやりたい放題なキャラクターに見えますけど、一方でガルドが起こした事件についてずっと黙っていたりする。やっぱり根っこの部分では主人公キャラだと思いますし、そのことが明らかになって、ふたりが最後の最後に和解して共闘するシーンは、ドラマとして最高に劇的な展開だと思います。
――その後のガルドの死にざまもまたカッコいいですよね。
平尾 ベタではありますが、完璧ですよね。イサムを先に行かせてガルドが無人戦闘機を引き受けるのは、彼にとって贖罪の意味もありますが、現実的にもベストな選択で、だからこそドラマに無理が生まれずに納得できるんだと思います。ガルドとイサムの最期の会話も「こっちはもうすぐ片がつく。一杯やるのが楽しみだ」とか、とにかくセリフが粋で海外ドラマ的でもある。イサムもそのあとマクロスに特攻して「死んだのかな?」と思いきや、ちゃんと生きているなど作品全体としてはハッピーエンドで終わっているのも気持ちがいいです。渡辺信一郎監督の音楽と映像のシンクロセンスも爆発していますし、アクション作画の魅力も含めて、とにかく全方位でよくできた作品だなと思います。
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